ゲンサク

元気炸裂のゲンサクです。日常の体験談や話題のニュースをお届けします。

世にも奇妙な物語でありそうな話。その2

もう1話、書いていました。
確か、奇跡体験!アンビリバボーで放送されたトイレから出られなくなって、数日過ごした話を元にして書いたと思います。
これも世にも奇妙な物語でありそうな話ですね。

トイレの水森さん

おそらく、4日目が過ぎようとしているのだろうか。三十歳にして生死を彷徨っていた。
私の名前は岡川雪絵、建築関係の図面を引く仕事をしている。
連日、深夜までの仕事に疲れ、親からの結婚の催促の電話もストレスになり、身も心もボロボロだった。
現実逃避をしたくて、思い切って長期休暇を取り、行き先を決めずに気ままな旅へ出掛ける矢先の出来事だった。
出掛ける直前、トイレで用を済ませ、ドアを開けようとするが、まったく開かない。
トイレに入った瞬間、扉の外でバタンっと大きな音がした。
ネットで注文していたお掃除ロボットが届き、一度も開けずに段ボールのまま、トイレの前に置いていたのだ。
それが倒れ、トイレのドアを塞いだと思われる。
それから、思いっきりドアを叩いたり、換気扇から叫んでみたが、誰も助けに来てくれない。
一人暮らしの寂しさを痛感した。悲しさのあまり何度も泣いた。
携帯電話は、トイレに入る前に通路に置いたカバンの中。
たまにメールが来ているのか、着信音が聞こえる。
水が飲めるのが唯一の救いだった。だが、空腹でカラダに力が全然入らない。
旅先で郷土料理を食べようと思っていたから、朝食も食べていなかった。
腕時計をしていたから時間は分かるけど、トイレに窓がないため、朝なのか夜なのか判断できなくなっていた。

5日目の深夜2時。
便器に座ったまま、ウトウトとしていたら、ゾクッと背筋に寒気が走った。目が覚めて、右後ろ上に気配を感じて、ゆっくり振り返ると、薄らと青白い人物らしき顔が見えてきた。通常だったら、大声あげて逃げ出すところだが、大声をあげる元気はなく、もちろん逃げ出すこともできない。
その顔が高校からの友人、水森知加子さんに似ていた。
「み、水森さん?」
思わず呟いた。
すると水森さんらしき人物が、話しかけてきた。
「えっ、俺が見えるん?」
驚いた表情に変わった。
「俺が見えるってことは、霊感がかなり強いか、死の瀬戸際って時だぞ。ひょっとして死にかけているのか? まいったなぁ。なんか悪いことした気分じゃないか。」
私は、おっさん口調の水森さんに違和感を感じたが、空腹過ぎて幻覚が見え始めたと思った。もしくは夢? 恐る恐るだが、率直に聞いてみることにした。
「水森さんではないのですか? おかしな口調だし。」
「まぁ、水森ってことは確かだな。でも、中身っていうか、話している俺は、死んだ時が52歳の男だ。これはなぁ、水森の生霊ってやつだ。お前、この水森に何か恨まれることでもしたんだろう。」
「はぁ?」

説明を聞くと、恨みを持つ人物の念が地獄の近くまできて、地獄行きの死人の霊魂が代わりに、恨みを晴らしにやってくると言うのだ。姿は、恨みを持つ人物だが、中身は死人の霊魂。生前に罪の軽い犯罪や悪事を働き、地獄に行くには、ちょっと可哀想な死人に、最後のチャンスとして地獄の鬼の仕事を手伝い、労働が認められたら、人として生まれ変わり、その人生を精進した霊魂は、晴れて天国へ行けるということだ。

「だから、私をトイレに閉じ込めて、◯すんだ。」
「バカッ。◯すっておっかないこと言うな。そんなことしたら、俺は確実に地獄行きだろう。さっき、背筋がゾクッてしなかったか?」
私は小さく頷いた。
「ほらみろ、しただろう。それが俺の仕業だ。お前がトイレに閉じ込められていることとは無関係。」
ますます分からなくなってきた。
「たったそれだけをやりに来たってこと?」
「そうだ。俺ができるのはそのくらい。あと、歩いている時に段差がないのにつまずくことがあるだろう。あれも生霊の仕業だな。それから、目立ちたがりな霊魂は写真にこっそり写り込んだり、死人の携帯電話を使って電話することもある。お前は、ずっとトイレに入っていたから、ゾクッてさせることしかできなかったわけだ。」
「そう、死ぬ前に最後の嫌がらせをやりに来たのね。私に恨みがあるのなら、トイレで死んでいく私を見て、さぞ嬉しいでしょう。」
「そんなこと知らねぇよ。こっちもまさかお前がトイレの中で死にかけていると思わねぇしさぁ。」
「私だって、トイレの中で空腹によって死ぬなんて思わなかったわよ。」
段々、怒りを水森さんの生霊にぶつけ始めた。それを悟ったかのように、生霊はそろそろ引き返そうと後ろを向いた。
「じゃあな。俺の仕事は終わったし、地獄の入口に帰るわ。時間的に今日の仕事も、あと1件くらいだしな。」
そう言うと、水森さんの生霊は、スッと消えていった。
トイレの中に閉じ込められて、誰にも気付かれずに死んでいくのに、さらに、ずっと仲良しの友達と思っていた水森さんから、恨みをかっていたなんて切なすぎる。
私は、小さくため息をついた。
あれっ、まてよ。さっき生霊の存在が確実なのは、わかった。
それなら私自身が生霊を飛ばすことができるかもしれない。
さっきの水森さんの生霊の中身の霊魂のおっさんが、私の今の状況を知っている唯一の存在なのだから。
私は、水森さんの悪いところを考え始めた。
しかし、水森さんはいい人で、なかなか恨みようがない。
水森さんには悪いが、世の中のすべての悪行は水森さんがやっていることにして念じてみた。
しばらくすると、私の携帯電話が頻繁に鳴った。
どうやら、失敗に終わったようだ。
おそらく、逆に反感をかって、死んだ人の携帯電話からかかってきているのだろう。
絶望にうなだれた時、玄関の方で人の声が聞こえた。
玄関の扉がガチャッと開き、「雪絵ー!」と水森さんの叫び声が聞こえた。
私は、よろめきながらトイレの扉を叩き、「ここよ」とできる限りの声を出した。
段ボールを動かす音がした後、トイレの扉が開き、水森さんが飛び込んで来て抱き合った。
助かったと思った瞬間、涙が溢れ出した。

それから、呼んでくれていた救急車が到着して、運ばれている最中、水森さんにどうして助けに来てくれたのか訪ねたら、携帯電話を取り出して、私から「たすけて」とメールが来ているのを見せてくれた。
私は、あのおっさんがしてくれたんだと直感した。
おっさん、ありがとう。
名前を聞いておけばよかったなぁ。
「あっ、水森さん。最近、私を恨まなかった?」と聞くと「昨日の土曜日に、一緒に映画を観に行く約束していたじゃない。5日前からメールしても返事がないしさぁ。」
忘れてた。

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